東京女子大学 
心理・コミュニケーション学科教授

1985年 文理学部心理学科卒業

 

 

 幸運に恵まれ、東京女子大学に着任し、20年。100周年の記念すべき時を、本学のスタッフとして迎えることができました。スタート時は、自らの研究と教育に一生懸命でしたが、最近は、大学全体への配慮と社会全体からみた本学の位置についても深慮する役職に就き、また多くの方々に支えられて歩んでいます。

 東京女子大学に入学したのは、心理学をしっかり学べる大学だからでした。子どもに関する勉強をしたいけれど、教師には向いていないと悩んでいたころ、心理学という学問があることを知りました。子どもを観察しながら、こころの様子を客観的に理解していくアプローチに一目ぼれしました。当時はまだ心理学科は少なく、東京女子大学に入学することに迷いはありませんでした。とはいえ、専門にストレートに進んだわけではありません。1年次はリベラルアーツ科目でクラスが編成されていて、他学科の仲間がたくさんできました。心理学科は、実験実習が多く、文系なのに数学が必修となっていて、仲間と共同で解決していく授業ばかりでした。そのおかげで、心理学という自己の内なる問題を、グループ活動という人間関係の問題にまで広げてみることができるようになったと思います。東女は、お互いの意見を聞き、違いをみつめながら、どんなテーマでも語り合える素敵な仲間と出会えた場所でした。

 卒論では、柏木惠子先生のもと、子どもの対人認知の発達を研究しました。先生からは研究に関する指導だけではなく、卒業後の進路について、厳しく優しいアドバイスもいただきました。自分の生き方について悩むとき、先人として語ってくださる先生と出会えた場所が東女でした。

 大学卒業後、柏木先生の恩師である東 洋先生に師事し、多くの心理学研究を牽引してきたアメリカ・ミシガン大学を訪れることができました。そこで、文化心理学に出会い、心理学に2度目の恋をしました。それ以来、自己形成における社会的要因として、人間が作ってきた文化の潜在的影響を明らかにすることをめざし、文化のなかで生きる人間について研究しています。東京女子大学の学際的展開であるコミュニケーション学科(現在は心理・コミュニケーション学科)に着任し、学生が異文化体験で発見した問いをアカデミックに解きあかすプロセスを楽しんでいます。東女は、真摯な学生、刺激しあえる後輩に出会えた場所ともなりました。

 小学校のころ、海外と日本を結ぶ人になりたいと夢見ていた私には、グローバルな日本人の先駆者である新渡戸稲造先生と、海外で教育学と心理学を学ばれた安井てつ先生の志が刻まれた東京女子大学で学んだことは、後に知った偶然と必然でした。心理学とグローバルな社会を結ぶ、文化心理学の研究にチャレンジし続け、東女を造り上げてきてくださった一人ひとりの先輩の志を次の世代へつなげるよう、次の100年へとバトンをつなげていきたいと思っています。

 東女では、心理学という人間の見方、自分の生涯の軸となる知恵という「たからもの」を授かり、語りあえる仲間という「たからもの」に出会いました。それは、卒業後、さらに輝きを増し、私のかけがえのないたからものになっていきました。どうか、たくさんの方が東京女子大学に無限にある「たからもの」を見つけてくださることを願っています。